死亡事故の被害者が歩行者の場合の損害賠償・過失割合について
交通事故により死亡という最悪の結果が引き起こされることがあります。
死亡事故に占める割合も、おおよそ4割に上っています。
そんな歩行者の死亡事故について説明していきます。
1 損害賠償請求の相続
死亡事故では被害者が亡くなっているため、本人以外の者が損害賠償請求することになります。
法定相続人が手続をしていくことになります。
法定相続人となり得るのは下表の親族です。
・配偶者
・子供
・直系尊属(親・祖父母)
・兄弟姉妹
2 死亡事故について加害者へ請求できる損害
死亡事故が起きた際、加害者へ請求できる損害は主に以下の3つです。
死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、交通事故によって被害者が亡くなったことに伴う精神的苦痛を慰謝する賠償金です。
下記の3つがあります。
ア 自賠責基準
自動車の運転者は自賠責保険に強制加入しているのが通常です。そのため、被害者遺族は少なくとも当該自賠責保険から慰謝料の支払いを受けることができます。
この場合の慰謝料額は、自賠責の設ける基準で算定されることになり、具体的には請求する遺族の数や遺族が被害者に扶養されていたか否かで金額が定まります。
死者本人に対する慰謝料は400万円(2020年4月1日以前に発生した事故に関しては350万円)となっています。
死亡者に扶養されていた場合は200万円。
慰謝料を請求する遺族が1人の場合は550万円。
2人の場合は650万円。
3人の場合は750万円。
イ 任意保険基準
加害者が自賠責保険の外に、損害保険会社の任意保険に加入している場合、当該保険会社が独自に賠償額を提示する際に用いる基準を、便宜上任意保険基準と呼んでいます。
この基準は各保険会社が独自に定めるものであり、特に公表されているわけでもありません。
ウ 弁護士基準
弁護士基準は裁判所の先例を集計し、この蓄積により設けられた基準です。
なお、被害者遺族が弁護士基準で慰謝料を請求するには弁護士への依頼が不可欠です。
理由は裁判に至る可能性が高いから裁判した場合の基準である弁護士基準を用いるのであって、一般の方が適切に訴訟を提起し、遂行するのは難しいことにあります。
一家の支柱は2,800万円。
配偶者、母親は2,500万円。
上記以外は2,000万~2,500万円。
となります。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、交通事故被害者が生存していれば本来得られたはずの収入に係る損失のことです。この金額は以下のような式によって計算します。
基礎収入額×(1―生活費控除率)×就労可能年数に対応する中間利息控除
葬儀関係費用
葬儀関係費用とは、被害者が死亡したことで発生した、葬儀や埋葬などの費用のことです。なお葬儀関係費用は、自賠責保険については原則的な上限があります。
また、これ以外の基準でも、必ずしもかかった金額全部が請求可能なわけではなく、合理的な範囲を超える場合には補償額が当該範囲に限定されます。
自賠責基準では原則60万円までとなっています。
弁護士基準では150万円となっています。
3 死亡事故の被害者が歩行者の場合の過失割合
交通事故の賠償金は双方の過失割合に大きく影響されます。
具体的な割合は下記のとおりです。
信号機のある横断歩道の場合
ア 信号機のある横断歩道上
歩行者対四輪車
・歩行者が青で横断開始
車が赤で横断歩道を直進
→歩行者(以下省略)0対四輪車(以下省略)100
車が青で交差点に進入右左折
→0対100
・歩行者が黄で横断開始
車が赤で横断歩道を直進
→10対90
車が青で交差点に進入黄で右左折
→30対70
車が黄で交差点に進入右左折
→20対80
・歩行者が黄で横断開始その後赤に変わる
安全地帯のない中央寄り車が青で直進
→30対70
安全地帯の通過直後車が青で直進
→40対60
・歩行者が赤で横断開始
車が青で横断歩道を直進
→70対30
車が黄で横断歩道を直進
→50対50
車が赤で交差点に進入
→20対80
・歩行者が赤で横断開始、(見込み進入)その後青に変わる
車が赤で直進
→10対90
車が赤で右左折
→10対90
・歩行者が青で横断開始したが、途中で赤に変わる(信号残り)
安全地帯の通過直後
→40対60
地帯のない道路の中央寄り
→20対80
横断終了直前、または安全地帯直前
→0対100
車が赤で横断歩道を通過
→0対100
イ 信号機のある横断歩道の直近
・直進車が横断歩道を通過した後の衝突
車が赤、歩行者が青で横断開始
→5対95
車が赤、歩行者が黄で横断開始
→15対85
車、歩行者ともに赤で横断開始
→25対75
車が青、歩行者が赤で横断開始
→70対30
車が黄、歩行者が赤で横断開始
→50対50
・直進車が横断歩道通過する直前の衝突
車が赤、歩行者が青で横断開始
→10対90
車が赤、歩行者が黄で横断開始
→20対80
車、歩行者ともに赤で横断開始
→30対70
車が青、歩行者が赤で横断開始
→70対30
車が黄、歩行者が赤で横断開始
→50対50
・右左折車が横断歩道を通過した後の衝突
車が青で交差点に進入、歩行者が青で横断開始
→10対90
車が黄で交差点に進入、歩行者が黄で横断開始
→30対70
信号機のない横断歩道の場合
ア 信号機のない横断歩道
・通常の横断歩道上
→0対100
・歩行者からは容易に衝突を回避できるが、車からは歩行者の発見が困難
→15対85
・横断歩道の付近
→30対70
信号機や横断歩道のない交差点またはその付近の場合
・幹線道路または広狭差のある道路における広路
直進車
→20対80
右左折
→10対90
幹線道路でない道路または広狭差のある道路における狭路
→10対90
信号機のない一般道路の場合
→20対80
歩行者が対向または同方向を進行していた場合
・歩行者用道路
→0対100
・歩道のある道路の歩道上
→0対100
・車道上
歩行者が車道通行を許される場合
→10対90
歩行者は車道通行を許されない場合、車道側端
→20対80
歩行者は車道通行を許されない場合、車道中央寄り
→30対70
・路側帯のある道路
路側帯上
→0対100
車道上、歩行者が車道通行を許される場合
→10対90
車道上、歩行者が車道通行を許されない場合、車道側端
→10対90
車道上、歩行者が車道通行を許されない場合、車道中央寄り
→20対80
・車道だけの道路
道路端
→0対100
・道路中央、幅員8m以下の道路
→10対90
・道路中央、幅員8m以上を超える道路
→20対80
歩行者が道路で横になっていた場合
・車からの事前発見が容易な場合
→20対80
・車からの事前発見は容易でない場合
→30対70
・夜間
→50対50
車が後退してきた場合
・歩行者が後退中の車の直後を通行
20対80
・直後通行以外
0対100
4 過失割合が加算・減算される場合
下記の場合、被害者の属性、加害車両の走行状況、道路の形状等により過失割合が修正される場合があります。
歩行者の修正要素
・夜間
・幹線道路を横断
・車両の直前直後の横断・横断禁止場所を横断
自動車の修正要素
・被害者が幼児・児童・老人・身体障害者
・集団通行時の事故
・著しい過失・重過失があった
→著しい過失:わき見運転など前方不注意が著しい場合・酒気帯び運転・時速15㎞以上30㎞未満の速度違反・著しいハンドル・ブレーキの操作ミスなど
重過失:居眠り運転・酒酔い運転・無免許運転・時速30㎞以上の速度違反など
5 被害者の過失割合を0と主張する場合、被害者は保険会社に対応を依頼できない
被害者も自動車保険に加入していれば、交通事故が起きた場合の加害者側との補償交渉を加入先保険会社に任せることができます。
しかし「青信号を歩行横断中の事故」や「歩行者用道路での事故」など、被害者の過失割合が0である(又は、被害者が自身の過失を0と主張する)事案では、加入している保険会社に示談交渉の代行を依頼することはできません。
そのため、被害者は自ら相手先保険会社と交渉することになりますが、被害者が事故処理の素人である一方、保険会社は事故処理に慣れていますので、そこに交渉格差が生まれてしまいます。もしこのような示談格差に不安がある場合、弁護士に依頼して格差を埋めることを検討するべきでしょう。
弁護士に依頼すれば、あとの手続を任せることができます。保険会社とのやり取りを直接する必要はありません。
専門的知識を自分で勉強する必要はなく、プロである弁護士の見解を聞いて、適宜相談しながら判断していくこととなります。
弁護士基準が採用され賠償金の金額自体も上がります。
以上、歩行者の死亡事故について説明してきました。
死亡という最悪の結果となってしまい悲しみに暮れることとは思いますが、残された人が故人の無念さを晴らす必要がありますし、今後の生活も安定させる必要があります。
ご自身のみで抱えきることは難しいでしょう。
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